飛べない、もしくは飛ばないかもめの物語 (JR九州 西九州新幹線-かもめ 開業によせて)
約50年も前に整備決定された西九州新幹線が
今秋2022年9月に開業した。
計画から半世紀を経た苔のむしたプロジェクトの開業でもあり、
残念ながら手放しでは喜べない。
整備計画時の50年前に較べて、佐賀・長崎両県の人口は
どれだけ減少しているだろうか。
新幹線など交通インフラを整備すれば、大きな経済効果を
得られるという論理は、現代の時代に合っているものだろうか。
この西九州新幹線-かもめ は、時間短縮は限られ※① 、
約6,200億円にもおよぶ巨費に見合う効果の見通しがない※➁、
ことも明らかになっている。
国民の税金における巨額プロジェクトは、
費用便益分析において、先々の見通しに暗い影を投げかける。
※①:博多から長崎への移動時間は最速1時間20分で、
約30分の短縮にとどまる。
※➁:建設にあたった鉄道建設・運輸施設整備支援機構自体が
投じた費用の半分しか便益が得られないと、自から評価している。
効果が費用を上回ることを要件とする整備新幹線のルールからしても、
本来着工すべきではなかったことにならないだろうか。
そもそも整備新幹線の計画が立案されたのは、
右肩上がりの成長や、人口増の時代であった
高度成長末期の1970年代である。
2022年の現代、全国各地でインフラは、耐用年数の目安とされる
使用50年を迎える。国土交通省によると50年が経過した
インフラの割合は2030年に、橋梁で55%にも達する。
2040年にはトンネルや港湾でも50%を超える。
求められるのは、新設・拡大ではなく、
維持や最適化に交通政策の軸足を移すことだ。
「MaaS(Mobility as a Service)」のように、
複数のMobility(交通手段)を、利用する際の移動ルートを
最適化することにより、鉄路、道路や空路を含めた幅広い視点で、
住民の利便性向上と、誘客に向けた交通網の再構築こそが
本当の地域活性化ではないか。
かつてオフィス街であった、万才町エリアも
多くの企業により、支所機能の閉鎖や撤退・縮小が行われ
オフィスビル跡地には、今や居住用マンション建設が
相次いでいる。
今後、ますますストロー効果が起きる懸念もある。
リピーターの少ない観光客の誘客にて、
街のにぎわいを、取り戻すことができるのだろうか。
街に暮らし、街でしごとをする人々がいて
まちは発展するのではないだろうか。
人口流出が続き、深く病んだ長崎経済の姿を直視し、
政策責任者や県民も等身大の地方経済に
向き合うべきではないだろうか。
その先への想像力をもって、将来世代のために。
【文 責】:原 田
Photo①:愛すべき長崎の街
Photo➁:JR九州 旧特急かもめ(長崎~博多間)